アイヌ工芸作家に出会う③ :鈴木紀美代さん

 鶴のつがいがよりそい歩く釧路湿原。ススキの穂が風にそよぐ景色を横目にドライブしながら、道東の釧路市にあるムックリ工房を訪ねました。ここで鈴木紀美代さんの作ったムックリは、良い音が出ると皆が口々に話します。今回はその製作現場にお邪魔しました。


Interview

マキリ一本で作った祖父のムックリ

鈴木さん『マキリ一本で作っていた、明治生まれの祖父のやり方を受け継いでやっています。手で作るので一つ一つ違いますし、音色にもそれが表れると思っています。とは言え、今は真ん中の切り込みだけは電動の糸ノコを使っています。昔はそれもマキリで彫っていましたから、じいちゃんは長い時間をかけてムックリを作っていました。幼かった私は「何をしてるんだろう?」って見ていたんですが、出来上がった時、すごくびっくりして嬉しかったのを覚えています。』

鈴木さん『そうそう。よくお祝い事の時なんかに親戚が集まると、炉縁でばあちゃんやおばさんがムックリを演奏して、周りのみんなは歌いながら手をたたいて踊りました。楽しかったですよ。今でいうカラオケに行くようなものかもしれません。』

鈴木さん『じいちゃんも両親も、色々な地域へ呼ばれては、踊りに行っていました。父の踊りは、ドーン、ドーン、って、地に響くような踊りだったんです。とってもかっこよかったですね。父の話は、写真集「父からの伝言」という本の中でも紹介しています。両親は釧路の駅裏でお店をやっていて、祖父と父は、初めは木彫熊などを彫っていました。でも、熊って大きいから、高いでしょう。それなら、小さくて安いムックリの方が数が売れるかなっていうんで、ムックリを多く作るようになったんです。竹は北海道では採れないので、お正月の門松を買い集めました。でも当初はムックリを作るのは一日10~20本くらいで、他のものも彫っていました。』

こだわりのムックリ製作

鈴木さん『20歳くらいから父を手伝い始めましたから、今年で57年ですね。病院や施設に勤めながら作っていた時もありました。昔は竹割りから糸付けまで、全部1人でやっていたんです。いっときは注文が多すぎて、ムックリの夢を見るほど忙しかったです。そんな時は夫も手伝ってくれました。1日で作れるのは、200~300本くらいです。マキリで削って音を確かめる作業は今も私がやっていますが、他の工程は専門の方にやってもらっています。全員女性で、長い方では40年以上も手伝ってくださっています。』

鈴木さん『作業をしながら、質の悪いものはどんどん捨ててしまいます。この頃は気候のせいか、竹の質が落ちているので、なかなか数ができません。竹が悪いと、作業に時間がかかるんです。そしてせっかく削っても、音出しをして悪いものは、はじいていきます。糸をつけたらまた音出しをして、その時にも結構はじきます。だから、かなりの量を捨ててしまうんですよ。こんな大変な思いをして大してお金にもならないですから、若い人はやりたがらないですよね。』

ムックリの神秘的な音色

鈴木さん『ロシアのサハ共和国で、受賞者の名前が発表された時、「キミヨ・スズキ」って聞こえたものですから、「同じ名前の人がいるんだね」なんて言っていたら、私のことだったんです。ドイツやオランダ、ノルウェーの口琴大会へも行って、「世界ではこんなに沢山の人が口琴をしているんだ」と感動しました。ただ、私は演奏するより作る方が得意です。サハで聴いた奏者の音色は本当に馬の走る音を表現していて、とても真似できないなと思いました。』

鈴木さん『ムックリってたまに、神秘的な音が出るんです。涙が出そうなほどいい音。昔のおばあさんの出したような音です。それがたまに私の音にも出ることがあって、すごく嬉しいです。昔ね、山へ山菜を採りに行ったら、熊の声がしたんです。周りのみんなは聞こえなかったって言うんだけど…私には「これ以上ここに来るな」っていう、熊の声が聞こえたんです。その声がこれです。(ムックリの演奏)』

三代のムックリを世界へ

鈴木さん『はい。祖父、父、私の作ったムックリの展示のほか、サビタや根曲り竹などの色んな素材を使ったムックリや、形の違う各地のムックリが展示されました。期間中には2日間のワークショップとコンサートも開催していただきました。』

鈴木さん『私ね、一度も刃物でケガをしたことがないんです。お手伝いに来てくださる方や、体験に来た方なんかは、たまに手を深く切ってしまうことがあるんですが…。私は60年近く続けてきて、一度もないんです。不思議だな…守ってもらっているのかな、って、思うことがあります。』

 ※写真は全てご本人の許可を得て撮影・掲載しました


Product

鈴木紀美代さんのムックリは下記よりご購入いただけます

PRODUCTページへ≫


投稿日

カテゴリー:

,

タグ: